病気について
発熱
発熱の定義
まず、発熱の定義(決まり)について確認しましょう。発熱は一応37.5度以上の熱があることをいいます。37度を超えると、「熱がある」と急いで病院に来てくださる方のいますが、37度から37.5度の間の熱であった場合には、医療側としては、どうしてそのとき「そのお子さんの熱を測ろうと思ったのか!」という理由のほうを大切にします。何か気になることがあって、熱を測ったからだと思うからです。
予防注射などに来られて、病院で熱を測られると37度以上のことは非常によくあることですし、大人でも1日中熱を測れば、37度を超えているときはよくあります(特に午後など)。
つまり、37度から37.5度の間の熱に関しては、熱だけならば、重要な意味を持つことはあまり多くないということが言えます。
という訳で、一応熱というのは37.5度以上と定義しましょう。
危険を伴う発熱
それでは、熱があって放っておいてはいけない場合をお話しましょう。
1つは、熱があって、何回も吐く、水分も取れないくらい吐いて意識がボーっとしているような状況の場合は、夜中であろうと診てもらえる病院に行って診てもらうべきです。非常に稀なことですが、髄膜炎が疑われます。
2つめは熱があって、けいれんを越こし、そのけいれんが10分を過ぎても、最初にけいれんが起こったときと同じような状況で持続し、まったく治まる気配の無い場合。
3つめは、熱があって、非常に強い持続的な腹痛があり、歩行も困難なくらい痛がる場合(歩くのにも背中を曲げて痛がっているような状況)。盲腸(虫垂炎)が疑われます。
4つめは、熱があって、(といいますが、この場合、発熱の有無はあまり関係ないのですが)、呼吸が異常に早く、頚の付け根や肋骨の間、胸の下が呼吸のたびにぺこぺこ引っ込むような状態で呼吸している場合。気管支喘息や、なんらかの強い呼吸器感染症が疑われます。
以上のような場合には、時間を問わず、小児科の医師が常駐している病院に行ってすぐさま診てもらう必要があります。
また、場合によっては、かかりつけの医師に連絡して、なんらかの指示を仰ぐという方法もあるでしょう。これは病院のシステムによっても違いがありますので一概には言えません。
以上のように実際には本当に発熱に伴う救急を要する事態というのは、思われるほど多いものではありません。
とりあえず、先に述べたような状況に当てはまらないような状況であれば、手持ちの熱ざましの座薬を使用するとか、額や腋下、太ももの付け根などを氷沈(熱さまシートを貼る)するなどの処置をして経過をみてもいいでしょう。
発熱の原因が重要
今までお話したように、重要なことは熱の高さや発熱そのものではなく、どうしてその熱が出ているかというこが重要であることが言えます。「それを判断するのが難しい」ということはあるでしょうが、一般的に、熱があっても比較的機嫌がよく、水分補給のできている状況であれば、あわてて医療機関を受信する必要はないでしょう。
また、熱が高ければ子供はぐったりして元気がなくなることもありますが、解熱剤を使用するとか先に述べたような解熱の処置をしてみて、少し解熱が得られた時点で、本人の状況を観察してみてもいいでしょう。
よく高熱が出たり続いたりすると、その熱で「脳がやられたりせんろうか?」などと心配されることがあります。この場合も先に述べたのと同様、その熱の度合いや持続期間が問題となるのではなく、その熱がどういう病気で出ているかに左右されます。つまり脳炎や髄膜炎が原因で発熱している場合には、当然そういった心配が出て来ます。
逆に熱の原因が「風邪」などであって、脳炎や髄膜炎の熱でない場合には、その熱のために脳が侵されるということはありえません。そしてさらに、熱があっても、比較的機嫌がよくて水分が取れるような状態、また、少し熱を下げてあげればこのような状態になる場合には、その熱の原因が脳炎や髄膜炎であるということはありません。
ここまで述べてきたことをまとめると、発熱は熱そのものが重要なことではなく、熱に伴う随伴症状(熱といっしょに出ている熱以外の症状)がとても重要ということです。
ばい菌は「ウイルス」と「細菌」
まず、「ばい菌」のことに関してお話しましょう。「ばい菌」には大きく分けて、「ウイルス」と「細菌」がいます。そして、風邪の場合には、その原因の7割から8割は「ウイルス」感染が原因であると言われています。「ウイルス」と「細菌」の違いは何かというと、簡単に言えば、その大きさと性質がまったく違うということです。
「ウイルス」は「細菌」に比べてとても小さく、「細菌」はそれ自体1つの「細胞」なので「細胞分裂」という方法でどんどん増殖することができますが、「ウイルス」は細胞よりももっとすごく小さく、自分で「細胞」は持っていません。そのため、自分が増殖するためには他の誰か(人に感染するウイルスの場合は人の細胞)の細胞に入り込んで増殖しないと増殖できません。
そして、抗生物質というのは、自分で細胞を持っている「細菌」の細胞を覆っている膜を壊したり、増殖を抑えたりすることで、「細菌」をやっつけることができる薬です。
ですから、抗生物質は「細菌」にしか効果はないし、風邪の多くを占める「ウイルス」感染には抗生物質は効果がないということです。でも、その病気が「細菌」感染であるのか「ウイルス」感染であるのかということは、特殊な場合を除いては、容易なことでは分かりません。
特殊な場合とは、診察しただけで分かる場合、すなわち、臨床症状と診断所見が特徴的な場合ということで、「麻疹」「風疹」「水疱瘡」「手足口病」「ヘルパンギーナ」などは診察しただけで、「ウイルス」感染だと分かりますし、「溶連菌感染症」と、多くの場合の「扁桃腺炎」は「細菌感染」だとわかりますが、それ以外の大多数の「ばい菌感染症」に関しては、診察しただけではその病原体まで推測するのは、ほとんど不可能です。
ですから、診察のみではその判別は、ほとんど不可能です。今の日本の小児科医療は、「診察だけでは分からないのだから、とりあえず抗生物質を投与しておく」という方向です。
そして、そういう流れから保護者のニーズも「抗生剤絶対信仰」が定着しています。このように日本では何にでも抗生剤を投与するため、抗生剤の効きにくい「細菌」がとても増えてきています。細菌も知恵を働かせて(と言っても「脳」はないのですが、彼らも生き残るために学習(変異)していくのです)、自分たちをやっつけるものに対して抵抗力を身に付けていくからです。
「ウイルス」か「細菌」かの判断
それでは、診断所見と臨床所見だけで、「ウイルス」なのか「細菌」なのか解らない!ということを解決するのはどうしたらいいのでしょう。
最も確実な方法は「ばい菌」のいる場所から「ばい菌」を捕まえてきて、それを育てて十分増やしてから、その「ばい菌」がどんな「ばい菌」であるかを確かめる方法です。
しかしこの方法は捕ってきた「ばい菌」を人間で言えばベッドのようなところに寝かせて、えさをあげて育てるのでどんなに短くても24時間くらいはかかってしまいます。その確かめたい「ばい菌」がウイルスである場合には、さらに特殊な技術と時間が必要になります。そこで、その「ばい菌」が「ウイルス」か「細菌」かを推測するために、血液中の白血球の数と好中球の数を推定する方法を用います。「白血球」とは、体にばい菌が侵入してきたときに、それをやっつける役割をする細胞のことです。白血球は「細菌」がからだに入ってきたときには「ウイルス」が体に入って来たときよりも数が多くなるのが一般的です。さらに白血球の中に好中球という名前の白血球がいますが、これは「細菌」がからだに入ってきたときにはその数が増加します。
つまり、血液検査をして白血球と好中球が増加していることが確認されると、からだに入ってきた「ばい菌」は「細菌」である可能性が高いと言うことが言えるし、そうでなければ「ウイルス」である可能性が高いということが言えます。
ほとんどがウイルス感染症
緊急事態の場合以外でも「早く診てもらえば早くよくなるのではないか」ということについてお話しましょう。
実は残念ながら違います。発熱の原因は多くの場合、急性の感染症ですが、感染症は大きくウイルス感染と細菌感染に分けられます。そして、ウイルス感染症が全体のおよそ7割から8割を占めますが、ウイルスの効果のある薬は、今のところ、「水疱瘡」と「インフルエンザ」にしかありません。それ以外のウイルスの病気に関しては、数はとても多いにも関わらず、そのウイルスそのものをやっつける薬というものはないのです。
熱があれば熱を下げる薬、咳があれば咳の薬、鼻があれば鼻の薬、というふうに、その症状を抑える薬を投与して経過をみるしかありません。いわゆる対症療法というやつです。それでも、ほとんど100%に近いくらいの確率でウイルスの感染症は時間が経てば治ります。これらのことについては、また、「風邪」や「ウイルス性疾患」のお話をするときに詳しく説明します。
熱が下がらない!
「熱が下がらない」ことについてのお話をしましょう。
「熱が出た。」「すぐさま病院に掛かって診てもらった!」のに熱が下がらない!「なんでやー!」といういことになるのは当然ですが、察しのいい方は、すでにお解りでしょう。多くの場合、熱の原因は急性の感染症ですかが、その急性感染症の原因の7割から8割はウイルス感染なのです。
そして、先に述べたようにそのウイルス感染そのものを治癒させる薬剤というのはありませんから、そのウイルスが2日熱の出るウイルスであれば、2日間は熱が続くし、5日熱の出るウイルスであれば5日間はどんな薬を投与しても熱は5日間続くのです。
つまりその間は解熱剤などを使用しながら、また熱以外の諸症状があれば、その諸症状を抑えながら待つしか方法はありません。けれども、ウイルス感染症の多くは、熱の持続期間は1~3日ですから、一見、病院に掛かって、お薬をもらったので治癒したかのように見えることもよくあります。こう言ってしまえば身も蓋も無いのですが、ウイルス感染の場合には治るときが来れば治るし、それを治すのは、個々人の力ということになります。
ただ、残りの2~3割の細菌感染の場合には、抗生物質が効きますので、その感染症がウイルス性であるのか、細菌性の感染であるのか、ということはとても重要なことです。
逆に、ウイルス感染主体であるのに、効果もない抗生剤投与を漫然と続けるということはとても大きな問題です。ただし、診察所見のみでは両者を見分けることは、限られた病気を除いてはとても難しいことで、熱があればとりあえず抗生物質を投与して様子をみる、ということは日本では広く日常的に行われている方法です。が、その効果があるのはわずか2割程度であるということと、そういった抗生物質の乱用が原因で、抗生物質が効きにくい菌がとても増えてきていることが、今とても問題になってきていて、必ずしも正しい方法とは言えません。
ですから、適正な感染症の治療をするためには「ウイルス」とか「細菌」ということがとても重要なのです。
発熱がおさまるのは?
過去のいろいろな報告によれば、およそ7割~8割が「ウイルス」感染であると言われています。前述した方法を用いた場合、実際にはどのくらいの人が「細菌」感染で、どのくらいの人が「ウイルス」感染にあたると推測できるかということについてですが、この方法を用いて、発熱を伴う呼吸器感染症の1000例の患者さんの検討を行った結果、およそ6.5割の人が「ウイルス」感染で、それ以外の人が「細菌」か「細菌」の仲間ではあるけれども、ちょっと細菌とは違うもの(今まで触れてませんがそういう一群があります)に感染しているのではないか、という結果が出ました。
そしてその結果を元に「ウイルス」感染の場合には抗生剤の投与は原則的にしない、というスタンスで治療を行った結果、ウイルス感染の場合の発熱期間は平均で2.2日プラスマイナス1.4日で、ほとんどの患者さんの発熱は3日以内に治まることが多いことが分かりました。
また、4~7日と熱の持続する患者さんもいらっしゃいますが、その病原体が「ウイルス」である限りそれは待つしかありません。中にはわずかですが、最初は「ウイルス」感染だけであったとしても、途中に「細菌」感染も合併して抗生剤投与が必要になる患者さんもいますが(主に中耳炎など)、そのような場合にはそれが起こった時点からの治療開始(抗生剤等よ)で十分な対応ができると考えられます。
風邪は呼吸器だけでなく、消化器にも起こり、「感染性胃腸炎」イコール「嘔吐下痢」イコール「お腹の風邪」ですが、これに関してはまた機会があればお話します。
麻疹(はしか)
麻疹は「はしか」とも言います。最初、熱を伴う軽い風邪症状が出現し、その後、高熱とともに全身の著しい倦怠感が出現します。
また、この時期から体に発疹が出ます。発疹の特徴は体を中心とした全身性で、発疹と発疹の間が分からないくらいたくさん出ます。
この麻疹も一度掛かってしまえば、ウイルスの病気ですので、特効薬はありません。ウイルスに自分の体が打ち勝つまで闘うしかありません。麻疹ウイルスは少数ですが、「病気がよくなってきたかな?」と思われる時期に「脳炎」を起こしたり、体の抵抗性を弱めるので「肺炎」や「髄膜炎」を併発したりすることがあります。
また、何年も経ってから「進行性の脳炎」を起こすこともあります。ですから、かかるよりかはかからない方がいいのです。そのため、1歳から2歳までと、就学1年前のお子さんに計2回、無料で予防接種を行う施策が行われています。今でもそういった予防接種の施行されていない発展途上国においては麻疹は非常に致死率が高く、恐れられている病気です。
当然、そういった施策の行われていない国では、ちょっとしたことでは医療の恩恵を受けられないこともあり、脱水などで手後れになるということもあるのかもしれません。けれども、今の日本の状況では予防接種が受けられるし、そういった方法をとることにより予防が可能な病気で、子どもに後遺障害を残すような事態になれば、親としては悔やんでも悔やみきれなくなることでしょう。
接種券が配付されたら、なるべく早く予防接種を受けておくことをお勧めします。
風疹
風疹は「三日はしか」とも言われます。はしかよりは症状は軽く、小さい発疹が体を中心に出ます。発疹と発疹の間は離れていて、はしかの発疹とはちょっと違いますし、熱の期間も短いです。そうすると「病気自体は大したことないや!」って感じなのですが、このウイルスは妊婦さんに非常に悪い影響をおよぼします。
妊娠初期の妊婦さんが風疹にかかると、おなかの赤ちゃんが「先天性風疹症候群」という病気になります。この病気は生まれた赤ちゃんの目が不自由になったり、脳性麻痺になったりしますので、通常の健康な赤ちゃんのように発達することは不可能です。
この病気は日本で発見されました。沖縄で検診事業に携わっていた医師たちが、ある年代に生まれた障害を持つ子どもたちが同じような症状を示すことに気付き、その原因を探ったところ、その年代の沖縄の妊婦さんたちが一様に風疹にかかっていたことが分かりました。そして、妊婦さんが風疹にかかると、胎児にそういった影響が出ることを突き止めました。
こういった仕事を医学の世界では「疫学」と言いますが、すばらしい地道な仕事だと思います。話が脇道にそれてしまいましたが、つまり、風疹の予防接種というのは、「うちの子ども」が風疹にかからなくするだけでなく、風疹の流行そのものを根絶させる意味で行われているものです。
ですから、小児期に全員予防接種することが推奨されているし、小児期に予防接種が不完全な世代においては、男女とも中学生で予防接種が行われていました。
このように麻疹、風疹、まだほかにもあります(百日咳・ジフテリア・破傷風の三種混合、結核、ポリオ、日本脳炎)が、自治体(国)が無料で予防接種を行っている事業というものには、それなりの意味があります。
水痘(すいとう)
水痘は、「水疱瘡」とも言います。水疱瘡は軽い熱(中には高い熱の人もいますが)とともに全身いたる所に水を持った水疱ができる病気です。
症状は軽い人から重い人までさまざまです。感染力が強いので保育園などでは、1人がかかれば大流行になります。ただ、感染はしてしまうけれど概ね予後良好(というのは、かかりはするけど時間がたてば治るし、かかったことによる後遺障害もほとんどない)な病気なので、そう心配することはありません。
そして今は、この病気に関してはウイルスだけれども、やっつけられる薬もあるので(ウイルスだけれどやっつけられる薬はこの病気とインフルエンザしかないのです)、そんなに恐ろしくありません。ただ、かかってしまえば感染を防ぐために全部のぶつぶつが「かさぶた」になるまで集団生活は出来ません。
あと、眼の周りなどの皮膚の柔らかい場所に、深いぶつぶつができると、痕に残ることがあります。(その他の場所のぶつぶつは深くても何年かすれば大体消えます)
おたふく風邪
おたふく風邪の正式名称は「流行性耳下腺炎」です。典型的な場合は発熱を伴い、両側の耳下腺(耳の前、下、うしろ)とあごの下の顎下腺が腫れて、まんまる顔で下膨れの「おたふく」のようになるので、俗に「おたふく風邪」と言われています。
おたふく風邪にかかると大体治るまでに1週間ほどで、腫れが引くまでは集団生活は出来ません。
おたふく風邪で困ることは集団生活ができなくなることと、頻度は教科書的には10人に1人の割合で髄膜炎を起こすことがあること、思春期以降の男児がかかってしまうと精巣炎(精子を作る場所の炎症)を起こし、不妊の原因になることが稀ですがあるということです。
先ほど、髄膜炎の頻度は教科書的には10人に1人と言いましたが、実際に患者さんを診ているとそれほど多くはないと感じます。また、たとえ髄膜炎になったとしても、ウイルス性の髄膜炎なので後遺障害を残すことはほとんどありません。ですからそれほど心配する必要はありません。
りんご病
りんご病の正式名称は「伝染性紅斑」と言います。ほっぺがりんごのように赤くなり、手足にレース状の模様のような斑点が出ます。このような斑点が出る1週間前くらいに発熱、のど痛、筋肉痛などの風邪症状を起こすことが多いのですが、この時点での診断はまず無理で、「風邪」と診断されることが多いでしょう。
この病気もごく稀に患者さん本人に血液障害などの症状が出ることがあるものの、軽症で経過することが多い病気です。ただ、妊娠初期の妊婦さんがかかってしまうと、胎児に悪い影響を及ぼすことがあるので、りんご病と診断された場合には、登園停止ではありませんが、むやみやたらと出歩かない方が望ましいでしょう。
異型肺炎
異型肺炎は学童期に多い病気です。肺炎という名前ですが、熱は大したことはないことが多く(出るときはとても出ますが)、咳が主体の病気です。
聴診しても胸の音はさほど悪くはないのですが、レントゲン写真を撮ると肺炎像が認められます。「熱が主体ではなく、聴診上ではあまり所見もない、けれどもレントゲンを撮ると肺炎がある、という点で通常のスタンダードな肺炎とはちょっと違うよ」という意味で「異型」肺炎と呼ばれています。
適切な診断治療がなれてない場合には、咳が1か月以上に及ぶことが多い病気です。
夜尿症について
「夜尿症」に関しては、だれかれに相談することもできず、苦しんでいるご家族も多いと思います。
特に年令が大きくなればなるほどそうですよね。ですが、基本的に「夜尿症」は治る病気です。「夜尿症」には大きく分けて3段階の分類があります。
1つは「精神的な緊張が強くてそうなってしまうもの」、1つは「おしっこを溜めることができなくて出てしまうもの」、1つは「おしっこの出さないホルモンの異常によるもの」です。
そして、頻度の多いのは先ほどの順番どおりです。つまり「夜尿症」の原因で一番多いのは「精神的な緊張が強くてそうなってしまうもの」で、次に多いのは「膀胱におしっこが溜められなくて出てしまうもの」、頻度は少ないけれど「おしっこの出さないホルモンの異常によるもの」です。
それぞれの患者さんに対して、日常の水分接種の状況とか、どのくらいおしっこが我慢できるかとか、どのくらいおしっこを溜めることができるか、とか聞いたり、試したりすることでその子どもの「夜尿症」の原因が、どこらへんにあるのかということはおおよその分類が出来ます。
そして、そのそれぞれに対してそれぞれの薬があります。ですから、あまり家族だけで悩まずある年令を過ぎて「あれ?」って思ったら医療機関に相談されることをお勧めします。
ただし、寝床からトイレがとても遠いとか、「トイレ」そのものにとても恐い感じとかがあれば、それだけで「夜尿症」の原因になることがあります。
溶連菌感染症
溶連菌感染症とは溶連菌という種類の細菌が のどにくっついて感染を起こす病気です。主な症状はなんといっても「強烈なのどの痛み」でしょう。風邪なので「何となくのどが変な」とか「なんとなく痛いような」とは異なり、水や食べ物がのどを通過するときさえ痛みがあります。
熱は出ることが多いですが、そう大して熱の出ない子もいます。他には体に細かい赤い発疹の出ることもあります。
また軽快期には手足の爪の生え際の皮が薄く剥けてくることがあります。それと、これはどうしてかわからないのですが、病気の始めに吐く子どもが多いようです。
溶連菌感染症の子どもを診察すると、のどが「まっ赤っか」です。その色調は本当に特徴的で多くの場合、診断所見で「溶連菌感染症」だと診断できるほどです。ですが、一応診断が済むまでは(この検査診断に関しては病院によって異なり、15分ほどで一応の診断ができるキットを使う場合と、細菌を育てて確認する場合があります)抗生剤投与で経過観察し、診断が済めば、さらに抗生剤の投与をするのが一般的です。「溶連菌感染症」と診断されれば、10日~14日の抗生剤投与が必要になります。
それは、「溶連菌」自体は抗生剤ですぐに死んでしまうそんなに強くない細菌なのですが、溶連菌が体に入ってきたことにより、人間の体は「悪いやつがやって来た!」ってことで溶連菌をやっつけるために自分でも「抗体」っていうのを作って溶連菌に対抗しようとします。
その抗体は溶連菌がいなくなった後にも体に残るのですが、たまたま「溶連菌」の細胞の一部と人間の「腎臓」の細胞の一部の構造が似ているため、人間の体に残った「抗体」はもう細菌はいないけれども、腎臓の細胞を敵と間違えて攻撃してしまいます。
こうしたことで溶連菌感染症の後に腎炎になることがあるため、早い時期に十分な抗生剤を投与して、あまり抗体がたくさん産生されないようにするのです。
そして、念のため「溶連菌感染症」後には尿の検査を繰り返し行いますが、適正な抗生剤内服が行われた場合にはほとんど100%腎炎を発症することはありません。
手足口病
この病気は「溶連菌感染症」と違ってウイルスの病気です。病気の特徴は手、足、口の中、そしてお尻に2mm前後の小発疹ができる病気です。
ただ、「手足口尻病」では語呂が悪いので「手足口病」って命名したのだとか。(これは本当か嘘かわかりません)発疹はただ赤茶色っぽいのもあれば、ちょっと水をもっているかのように白っぽいのもあります。
病気そのものは軽いことが多く、子ども自体は元気なことがほとんどです。そしてウイルスの排泄期間(人へ感染する期間)も臨床症状の出現期間(「ぶつぶつ」の出ている期間)よりもはるかに長いため、臨床症状が出現しているときだけ、集団生活を停止しても他児への感染は防げません。
ですから、熱がなくて、摂食に問題のない状況であれば登園、登校停止の必要はないと考えられています。手足口病のウイルスは1種類ではないので、1回掛かったからといって2度と掛からないということはありません。
ヘルパンギーナ
ヘルパンギーナも「手足口病」と同じくウイルスの病気です。主な症状は喉のいわゆる「のどちんこ」の腋に小さくぶつぶつができて発熱を伴います。
熱が高いことと喉が痛くて食欲が落ちることが多いのですが、これまでも再三述べているようにウイルスの病気ですので、決定的な治療(ウイルスそのものをやっつける薬)はなく、痛み止めの飲み薬、塗り薬、熱に対する対処療法で様子をみることになります。
とびひ
「とびひ」は、皮膚の掻き傷などのところに「細菌」が増殖して膿むことがありますが、その膿んだところを掻いて、その手で他の皮膚を触るとその触ったところに細菌が移っていって、同じように膿んだような傷ができる病気のことです。
夏場には蚊に咬まれたり、ダニに咬まれたりしたところをあまり清潔でない手で掻きつぶすことによって、細菌が増殖しやすい状態となります。
これを予防するには、虫に咬まれないようにすることが一番ですが、咬まれてもあまり掻きつぶさないようにする、爪を短くするとか掻きそうな傷は早い時期に傷つけないようカットバンや包帯で軽くカバーするなどが有効でしょう。
また、そういった傷に細菌が繁殖しないように消毒薬を塗ったり、噴霧しておくなども有効でしょう。子どもさんの体質にもよりますが、本当に医療機関にかかるほどに至るには、お家でできるいろいろなこともある病気です。爪を切るか、傷は石鹸できれいに洗って消毒し、カバーするとか日常の清潔習慣を見直してみましょう。
感染性胃腸炎
おなかの風邪=嘔吐下痢=感染性胃腸炎です。
この病気はウイルスによるものも細菌によるものもありますが、多くはウイルスによるものです。その病原体によって症状は高熱を伴うものから嘔吐が主体なもの、下痢が主体なものなどさまざまです。
冬場に多い傾向にあると言われていますが、近年は1年を通してそれなりの流行が見られるようです。まず嘔吐については、少しずつでも水分摂取が可能でそれを吐かない状態なら、なんとか水分摂取量を増やしていくことによって、徐々に改善が得られるでしょう。水分を摂っても吐くという場合には、吐き止めの座薬、注射、点滴などの処置が必要になります。
このような場合には、「おしっこ」を調べると「おしっこ」の中のケトンという物質が増加していることが多いのです。人間の体は、通常の健康な状態では、糖を摂取するとそれをエネルギーに変えて、体を動かしたり、日常生活をしたりする力に変える工場のようなものが備わっていますが、病気になるとその工場が故障して、別の方法でエネルギーを産生しようとするようになることがあります。その方法ではエネルギー産生の効率も悪く、またエネルギー産生の過程でケトンという物質を生み出し、これが吐き気の原因物質になってしまいます。
ですから、ケトンが溜まりすぎた場合には点滴でこれを体の外に流してあげないと吐き気などが、改善しない状態になります。これは、大人でもいわゆる「二日酔い」の状態で経験できます。ものすごく飲み過ぎるとお酒は糖分が多いですから、通常の糖の分解工場が機能できなくなり、別の方法でそれを分解しようとしますが、その方法では、先に述べたように効率も悪く、気持ち悪さの原因物質「ケトン」が溜まるので、その日のお酒の飲み過ぎだけでは済まず翌日、まだ再起不能な状態に陥ります。
そういうことが子どもの体に起こっているということなので、どのくらい気持ち悪いか・・・ってことは、ある程度ご理解いただけるのではないかと思います。
気管支喘息
喘息とは
喘息というのは、気管支の炎症により空気の通り道が狭くなって、空気の
出入りが悪くなるために、呼吸しにくくなり息苦しくなる状態のことを指します。
主に、アレルギーが原因で起こりますが、乳幼児では感染をきっかけに
喘息のような状態になることもあります。この状態を喘息性気管支炎といいます。
喘息性気管支炎=気管支喘息ではありませんが、感染症のたびに
喘息性気管支炎になるようなお子さんは、本当の意味での喘息に発展していく
ことが多いようです。また、もともとアトピー性皮膚炎のある患者さんや
両親にアレルギーのあるお子さんは、喘息に発展する確率が高いようです。
アレルギーの原因物質は、多くが吸入抗原の中のハウスダスト、ダニに
よるものですが、カビ類や動物のフケなども吸入抗原になり得ます。
また喘息性気管支炎を起こしやすい病原体の代表は、RSウイルスで
ライノウイルスという病原体も喘息性気管支炎を起こしやすいといわれています。
喘息の発作型
喘息の発作型には以下のような5段階の分類があります。
*1*間欠型
年に数回、季節性に咳、軽いゼーゼーがある
ときに息苦しい状態になることがあるが、気管支拡張剤の服用あるいは貼付で改善し
長引かない
*2*軽症持続型
咳や軽いゼーゼーが1ヶ月に1回以上、1週間に1回未満
ときに息苦しい状態になるが、長引かず日常生活に支障はなし
*3*中等症持続型
咳や軽いゼーゼーが1週間に1回以上
ときに吸入や喘息の点滴の治療が必要となり、日常生活に支障を
きたすことがある
*4*重症持続型1
咳や軽いゼーゼーが毎日ある
週に1-2回、吸入や喘息の点滴の治療が必要となり、日常生活や睡眠に支障を
きたすことがある
*5*重症持続型2
*4*の状況で治療を行っていても症状が持続する
しばしば、入院での喘息治療が必要となるため、入退院の繰り返しにより、
日常生活に制限がある
喘息の治療
どの年代においても間欠型のこどもについては、その時々の発作に応じた
薬物療法で大丈夫でしょう。
軽症持続型の患者さんに関しては、近年は早期の持続的な喘息治療の
介入が推奨されています。
喘息は最初の項目でも述べたとおり、気管支の炎症を起こしている状態です。
軽症持続型の患者さんだと、一旦、気管支拡張剤やアレルギー薬、場合によっては
喘息薬で喘息の状態そのものは治まっても、またすぐに次の喘息が起こり、気管支の
炎症が完全に収まる期間を得ることが難しくなります。
健常な気管支粘膜の色をピンクとすると、喘息を起こして炎症をおこしている
気管支粘膜は赤です。喘息が起これば、それに対する治療をしますから赤い粘膜は
ピンクになっていきますが、ピンクになってる途中でまた赤になる。ピンクに成りきらずに
また赤くなると次にピンクに戻るのには、前以上の治療期間が必要になるし、
ピンクに戻りにくくなるのです。
そういった理由で、軽症でも持続型の患者さんに対しては、早期に喘息治療を
施し、気管支粘膜がピンクでいる期間を出来るだけ長く作るのが、将来ひどい喘息に
なるのを防ぐ方法であるということが言われるようになってきました。
主な治療方法は、抗ロイコトリエン薬といわれる薬で、気管支粘膜が炎症を起こす際には
気管支粘膜からロイコトリエンという物質が分泌され、この物質は気管支の炎症をさらに
増悪されるといわれています。ですから、このロイコトリエンという物質が気管支粘膜から
出ないようにするために、抗ロイコトリエン薬が使用されます。この薬が市販されてから
喘息の重症化は、明らかに減少していると思われます。
もうひとつ、非常に有効な治療法がステロイドの吸入療法です。ステロイドには
強力な抗炎症作用があります。この力を使って、気管支の炎症を抑えてしまおうと
いうものです。ステロイドと聞くと、副作用の強い何か怖い薬のような気もするかも
しれませんが、長期に内服薬などで全身性に投与するのとは、まったく異なり、
ステロイドの吸入療法は効いて欲しい場所(気管支)だけに、吸入により作用するので
安全性は高く、非常に有効な治療法といえます。
この両者を組み合わせることにより、主に乳幼児の喘息は、非常にコントロール
しやすくなりました。ケロちゃんでもこの治療法を導入し、それまで月に何回も
咳で受診しなくてはいけなかった患者さんが、咳も全然出なくなり、お薬をもらいに
来るだけの診察で済むようになっています。
乳幼児の喘息、あるいは繰り返す喘息性気管支炎は、その重症度を見極め
適切な治療をしてあげることで、本人も保護者も生活の質が変わります。
アレルギー
気管支喘息とアレルギー
気管支喘息についてですが、基本的に気管支喘息はアレルギーで起こる病気です。
ごく一般的な意味でアレルギーというのは、「1型アレルギー」を指します。いきなり「1型アレルギー」って言われても「何それ?」って感じですよね。
予防接種(インフルエンザ)のところで、わざとウイルスを入れて自分の体に「抗体」っていうのを作らせる話、ありましたね。(※予防接種のメカニズム参照)例えばあれは「4型アレルギー」反応を利用した理論なのです。
それで「1型アレルギーっていうのはどういうことか?」っていうと、元々その人がその物質(その物質というのは人によって、食べ物の場合もあるし、花粉やほこり、ダニなどあらゆるものの可能性がありますが)に対してアレルギーを持つ可能性のある人ということです。つまり、わざわざ何か今まで経験したことのないものを体の中に入れて、そいつの記憶を体に覚えさせて免疫反応を起こす(これが4型アレルギー)ということではなく、ある意味生まれつき「あーこいつ(こいつっていうのはほこりとかダニや食べ物などのいろんな物質のこと)嫌やな」みたいな記憶が体に備わっている体質(すごくおおざっぱな言い方ですが)ということなのです。
だから、「あなたのお子さんは気管支喘息で、ダニ、ほこりにすごい反応が出ています。家をきれいにしてください」とか言われると、なんか「家が汚い」と言われているみたいでちょっと落ち込んでしまうことがあるようですが、それは違うのです。
例えば、私はそういった1型アレルギーのない体質(家族も)なので、うちはどんなに汚くても私にも家族にもアレルギーは起こりません。ダニが1000匹いてもなんともない体質なのです。ですが、ダニに対するアレルギーのある子どもは、ダニが1匹いてもアレルギーを起こすっていうことです。どこの家出も1匹や2匹のダニはいるでしょう?ほこりだってありますよね。
そういうことに対する感受性の問題で、その感受性というのは持って生まれたもので、「掃除ができていないからそういうことになった」とかいうこととは関係ないのです。
ま、もちろんそういう感受性が強いということが診断された場合には、極力その感受性を刺激する物質はそのお宅から除去する努力は必要になります。それはあきらめて努力してください。
病気的な側面
気管支喘息の病気的な側面についてお話しましょう。
気管支喘息というのは、息は吸えるけど吐くことが難しくなる病気です。人間の呼吸は息を「吸う」ことと「吐く」ことから構成されています。当たり前にしていることですが、だからこそ、その当たり前のことができなくなってとても息苦しくなる病気です。
気管支喘息は気管支が細くなって息が吐けなくなります。さあ、それでは思いっきり息を吸ってみましょう。そして全部吐かずに3分の1くらい吐いてみましょう。またその状態で思いっきり息を吸ってみましょう。そして3分の1だけ吐いて、これを繰り返してみましょう。段々息苦しくなって息をすること自体難しくなってきます。
肩で大きく息をしたり、おかなを思いっきり膨らませたりしないと息ができなくなってきます。これが喘息のときの呼吸状態です。実際に、喘息の子どもは発作時には気管支が狭くなって息を吐きにくくなっているので、その狭い気管支から空気を出すために長い時間かけて息を吐きます。
また、呼吸自体しにくい状態になっているので、呼吸に携わる筋肉全部を使うために、肩で息をしたりおなかで息をしたりします。また、喘息のときの息を吐くときのヒューヒューいう音は、この狭くなった気管支を吐く息が通っている音です。
喘息の発作が起こっているときは、気管支が狭くなっている状態を改善してあげる必要があります。軽い場合には飲み薬で気管支が徐々に広がって来ますが、横になると息苦しいとか、肩からおなかの筋肉全体を使って呼吸しているような発作の場合には、お薬を吸って直接気管支を広げてあげないと治まりません。
また、直接お薬を吸っただけでは治らない場合もあって、その時には点滴で喘息のお薬を体の中に入れてあげます。発作時のお薬には気管支を開くβ刺激剤(内服、吸入)、テオフィリン製剤(内服、点滴)があります。また、重症の発作の場合にはステロイドという薬を点滴や内服、吸入する場合もあります。
喘息の発作の頻度が多い子どもの場合には、発作がないときにも先に述べたようなβ刺激剤、テオフィリン製剤を持続的に内服させる場合もあります。
この持続的な治療にはこれらの他に抗アレルギー剤と呼ばれるアレルギーそのものを改善させる薬を併用することが多く行われます。最近、喘息は気管支内で炎症を起こす物質が異常に増加することによって起こることが解明され、その炎症物質を抑える非常に効果的な抗アレルギー剤も小児に対して使用できるようになりました。いずれにしろ適切な治療、生活環境の整備が必要です。主治医とよく相談して気長に治療していきましょう。
「喘息気味ですね」
「喘息気味ですね」とか「喘息性気管支炎ですね」と言われたことのある人に関しての話をしましょう。
よく乳児や小さいお子さんの場合、風邪をひいた際に「喘息性気管支炎」ですね、と言われることがあります。これは喘息とは異なるものです。風邪から気管支炎や肺炎になることがありますが、その子は風邪から気管支炎になっているけど、その気管支炎のタイプが喘息タイプということです。
喘息タイプというのは先に喘息のメカニズムのところで説明したようなことが起こっているということです。だから、喘息タイプの気管支炎になっているということは、喘息のお薬がその症状改善に役立つという診断治療的な分類です。ただ、風邪のたびに喘息性気管支炎になることを繰り返しその頻度が多い、ごく少数の子どもは、そういった症状が喘息の前駆症状であって将来的に喘息になっていくことがあります。
花粉症について
花粉症について、ちょっと触れておきましょう。
一般的にはアレルギーというのは幼少時、アトピー性皮膚炎ではじまり、喘息を経て年長になると「花粉症」を発症すると言われています。そのメカニズムは同じで、ただ花粉症はそのアレルギー反応が鼻や眼の粘膜上で起こると言うことです。
最近では小さいときなんのアレルギーも無かったし、同じところに居住していたにも関わらず、年長になりいきなり、「花粉症」でアレルギーを発症するような人も増加しています。「花粉症」の場合はその人それぞれによって悪くなる時期が大体決まっているので(多くの場合2~3月、それに加えてさらに秋頃に調子が悪くなる人もいますが)、その自分が悪くなる時期の1か月前(通常の花粉症なら1月くらいから)から抗アレルギー剤の内服を開始すると症状の阻止に大変有効です。これをするのとしないのでは、症状の発現に大差があるので是非お勧めします。
てんかん・けいれん
「てんかん」はどんな病気?
皆さんは「てんかん」ってどんな病気だと思われているでしょう?世間で知られている「てんかん」のイメージは、日常生活の場で何の前触れもなくいきなり倒れてけいれんする恐ろしい病気で、「治らない」というような認識であることが多いようです。
ですが、そのような日常生活での発作が抑制し得ない患者さんというのは、そのてんかん自体が難治な場合だけで、てんかんにおける難治性てんかんの割合は2割程度といわれています。それにも関わらず、日常生活で実際に一般の人に目撃されるてんかん患者というのは、結局そういった難治性のてんかんである場合が多いので、てんかんを「恐ろしい病気」だというふうに捉えてしまうようです。
通常のてんかんは、圧倒的に良性のものが多く、発作の回数も人によりますが、ごく少数のことが多いので、かえってそういう良性のてんかんのことは世間に知らせないままになり、世間の認識を変えることができないのです。
てんかんとは脳細胞が異常に興奮して、けいれんを起こす病態のことを言います。通常、基本的に脳細胞はある程度規則正しい活動をしています。この活動は電位や電流に換算することができ、これを観察するのが脳波です。心電図というのがありますよね。あれは心臓のそういった働きをみているものです。
ただし、心電図とは違って脳波はその電流のとても微弱なことと、複雑なことが特徴です。それはともかく。脳波をとるとそういった規則正しい「波」からはずれている「異常に興奮している波」を捕まえることができます。
これといったきっかけもないのにけいれんを起こし、脳波でこういった波を捕まえることができたならその子どもの病態を「てんかん」と呼びます。ただ、ひと口にけいれんと言っても、その中身はとても複雑で、熱性けいれんで起こるような大きなけいれんから、外から診てもほとんどわからないようなけいれんまでさまざまです。
倒れたりすることはなくても呼びかけに応じずぼーっとしている、その場にそぐわない行動をする、顔色が悪くなり意識がはっきりしない状況になる、などなど症状をあげていけはきりがありません。
「てんかん」は非常に頻度の多い病気で、200人に1人の割合で発症します。そしてその8割程度は薬でコントロールし、治すことができるてんかんです。日本では、てんかんという病気に対する偏見が非常に強く、てんかんであると診断されると悲観的になることが多いようですが、最初に述べたように、てんかんは非常に幅の広い病気であり、適切な診断治療によりほとんど治癒可能な病気であることを知っておいてください。
「てんかん」の発作
まず、てんかんの発作についてお話しましょう。最もわかりやすいのは、全身性強直間代性けいれんです。これは手足に「ぎゅー」っと力が入って強直した後、手足がビクッビクッとけいれんする発作です。この発作は「熱性けいれん」でよく認められるタイプのけいれんです。
他には後でお話しますが、部分発作が二次性全般化した際に認められる発作です。これは脳全体に発作の波が出ているときに起こります。
この全身性強直間代性けいれんによく似ているけれど、そうではなくて、最初、片側の口や眼の周りがびくびくし始めて、それがだんだんそのびくびくしているほうと同じ側の手足がびくびくしはじめるという発作があります。これはローランド発作と呼ばれます。脳の両側の真ん中くらいに縦に走る溝があり、その溝のことを「ローランド溝」と呼びますが、そのローランド溝に沿って人間は手足を動かしたり、口の周りの筋肉を動かしたりするもとの細胞が並んでいます。
で、そこから発作の波が出ている場合にはこのような発作が起こり、こうしたてんかんを「ローランドてんかん」と呼んでいます。小児で最も多い良性の部分てんかんはこの「ローランドてんかん」で、発作の回数も少なく抗けいれん剤で容易に抑制することが可能です。場合によっては治療しなくても治る場合もあるほどです。
ただ、発作波自体は思春期くらいまで残ることが多いので、安全のために比較的長く抗けいれん剤の内服が必要になってくる場合が多いのが残念です。
欠神発作について
次に欠神発作についてお話しましょう。欠神てんかんは倒れたり体がけいれんしたりはしません。周りから見たら普通に座っているだけなのですが、声をかけても返事もしないし、ぼーっとしている状態のことです。
身体的なけいれんがないので、けいれんだと気付かれにくい発作ですが、これも脳の全体に発作波が出ていて、脳の意識レベルの低下を起こしている状態です。欠神てんかんにも非常に有効なお薬があるので、大抵の場合(発作のタイプがこの欠神発作単独である場合)、比較的すぐによくなることが多いのです。
ただ、難治てんかんの発作の一つとしてこのタイプが存在する場合にはなかなか抑制が困難なことがあります。
いろいろな発作
欠神発作と似ているようで違う「複雑部分発作」というのがあって、これも倒れたりけいれんしたりはしないけれど、あたかもちゃんと自分で行動しているように他からは見えるのですが、その行動がその場の状況とは全く関係ない行動をしてしまっている発作です。
この発作は脳の横の部分、側頭部の部分に発作波がある場合に起こります。
他にも脳の前から発作波が出ている場合、後ろから波が出ている場合など、それぞれの発作波の出る部分によってそれぞれの発作型があります。
多くの場合、発作がないときでもそれぞれの臨床症状に合致した場所から発作波が出ていることが多いので、発作のないときの脳波で「てんかん」の診断は可能ですし、それがどういったタイプのてんかんであるかはわかります。
ただ、発作には他にもいろいろなパターンがあり、発作があっているときの脳はを取らないと、それ自体発作かどうか判定不能の場合も存在します。
「てんかん」のタイプ
さて、ここまでに全般性だとか部分発作だとかいう言い方が出て来ましたが、ごく簡単に言えば、全般性と言うのは、脳の全体から発作波が出ている状態のことで、部分性というのは脳の一部にその発作波が限局している場合のことです。
全般発作には先に述べた「全身性強直間代性けいれん」「欠神発作」そのほかには「脱力発作」「失立発作」「ミオクロニー発作」などと呼ばれているものがあります。そして部分発作には先に述べた「ローランドてんかん」「複雑部分発作」、それ以外に今回詳しく述べなかった「前頭葉てんかん」や「後頭葉てんかん」などがあります。
部分発作は脳の一部に発作波が限局していますが、その一部に限局していたてんかん波が、発作が持続することによって脳全体に広がっていくことがあります。これを部分発作の二次性全般化と呼び、臨床症状としては全身性強直間代性けいれんをおこします。
一般の方は(専門ではない場合には医師でさえ)、この時点で初めて発作と認識することも多いので、けいれんというとなんでもかんでも全身性強直間代性けいれんということになってしまうのかもしれません。ただ発作のタイプによって、選択する抗けいれん剤が異なるので、それがどういったてんかんなのかということをきちんと診断することは、治療側にとってはとても重要なことです。
また、最初の段階でどのタイプのてんかんかということを診断することはその予後の予測にもつながり、非常に患者さん側にとっても重要なことです。ですから、その発作を観察していただいた情報が大事ということになります。
「てんかん」と遺伝
てんかんの中には遺伝性のものがありますが、すべてのてんかんが遺伝性のものではありません。
先に述べた「ローランドてんかん」や「欠神てんかん」は遺伝性の強いてんかんですが、いずれも非常に良性のてんかんです。このように遺伝性の強いてんかんの方が返って予後が多いものがあり、決して悲観することはありません。中には脳の構造異常そのものの遺伝によって起こってくるてんかんがあり、この場合は難治な場合もありますが、このようないことは極めて頻度が少なく、多くの場合、ある年令の一時期だけけいれんを起こしやすいとか、なかには無治療である時期が来れば治ってしまうものすらあるほどです。
そのけいれんを起こす遺伝子のタイムプログラムがそうなっているのでしょう。
てんかんに関する病態の解明はこの10年くらい、特に遺伝子レベルで驚くほど進んでいます。日々の進歩に遅れることなく私も頑張らなくては!と思います。
熱性けいれん
子どものけいれんで最も代表的かつ遭遇しやすい「熱性けいれん」についてお話します。「熱性けいれん」とは、明らかに発熱のある状態に伴い起こるけいれんのことを言います。一般的には38度以上の発熱を伴いますが、時にはけいれんを起こした後、そのような高い熱になることもあります。
熱性けいれんを起こすこともはとても多く、10人に1人の割合で起こすと言われています。
もう10年くらい前に土佐市で熱性けいれんの調査を行ったところ、10人に0.8人くらいの発症率でした。また、家族の誰かに熱性けいれんのあることもの法が、ないこと度尾よりも起こしやすいのですが、特に両親どちらかが起こしたことがある子どもは、熱性けいれんを起こしやすいようです。
「単純型」と「複雑型」
熱性けいれんには大きく分けて「単純型」と「複雑型」があります。「単純型」は時間が短く(15分以内)、けいれんの仕方は
●最初にからだ全体が固くなった後、手足がかくかくとなり、それらの動きに左右差がない。
●短い時間に何回も起こすことがない。(1日のうちに何回も起こすことない)
●最初の熱性けいれんを起こした年令が6歳以下である。
などの条件に当てはまる場合です。これらの条件に当てはまらない項目があるものを「複雑型」と言います。
大雑把な言い方をすると熱性けいれんが「単純型」のものであれば、何回起こそうが、そう心配はありません。(ただし、3歳までのトータルが10回を超える場合はちょっと話は違います。これは非常に稀なケースです)
さあ、それでは、「複雑型」の場合はどう考えたらいいでしょう。そもそも、熱性けいれんを「単純型」と「複雑型」に分けたのにはどういった意味があるのでしょう。それは、一見その子のけいれんは熱に伴って起こっているけれど、熱が単なるけいれんのきっかけになっているだけで、もともとけいれんを起こしやすい体質をしていて、最初に熱性けいれんという形でけいれんを起こすことがあるためです。
そういう体質の子を見分ける指標として「単純型」「複雑型」という分類をします。そして熱性けいれんが「複雑型」出会った場合には、その子が本当に熱だけでけいれんを起こすこともなのか、それとも熱がなくてもけいれんを起こす危険性が高いのか、ということをきちんと診断、場合によっては治療していかなくてはいけません。
熱性けいれんを起こしたら・・・
熱性けいれんを起こしたときにはどうしたらいいでしょう。
子どもが初めて熱性けいれんをおこしたら親はとても慌てます。慌てるなというほうが無理なのですが・・・1番大事なのは慌てないことです。というのは、その子が、「どんなけいれんをどのくらいの時間していたのか」ということが、先に述べたように、そのけいれんが曲者かどうかを判断する重要な決め手になるからです。
もし、けいれんを起こしたら、吐いたりしたもので呼吸ができなくならないように、顔を横に向け、(口にものをいれることは絶対にやめてください、入れたものを噛み砕いて、その噛み砕いたものが軌道を塞ぎ、窒息する場合があります)どんなけいれんを何分ぐらいしたのかを観察してください。
けいれんが10分以内で治まれば、その時点で病院に行く必要はありません。後日そういった事実があったことを主治医に伝えてください。もし10分以上経ってもけいれんの強さが治まってこない場合には、病院に行き、受診するようにしてください。けいれんが長く続き、止める薬を投与しないと止まらない可能性があります。
1回以上熱性けいれんを起こしたことがある子どもは、次回から発熱しにあらかじめ熱性けいれんを予防する座薬(抗けいれん剤)を使用することをお勧めします。
この座薬は37.5度以上の熱があり、さらに熱が上がりそうな気配があるとき使用します。こうした座薬を的確に使用することにより、かなりの確率で熱性けいれんの予防が可能になって来ています。薬剤の使用に関してはそれぞれ主治医の指示に従ってください。